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pub-1 「スポーツ選手における関節障害の診断と治療 」
ー 膝関節障害を中心として ー

J Nippon Med Sch. 65: 245-248, 1998

要約

 近年の情報化社会の中で、競技スポーツは体力的にも技術的にも益々高度化の一途をたどり、スポーツにおける外 傷・障害の発生頻度・重症度も年々増加している。スポーツ選手・指導者においては、外傷・障害に対する認識がまだ まだ低いのが現状であり、その重要性を理解していただくことが大切である。日常診療上よく見かけるスポーツ選手の関節障害の診断と治療のポイントについて、膝関節を中心に述べる。 
 関節障害の診断においては、まず各スポーツ動作の特殊性を理解することが診断のstep 1である。上肢と下肢では基本動作が異なり全く異なる障害が生じる等、各スポーツの特殊動作を調べることで、起こりうる障害が予想できる。例えば、野球の投球動作とBaseball elbow、テニス・ストロークとTennis elbow、バスケットボールのシュート動作と Jumper's knee、陸上の長距離走とRunner's kneeなどは有名である。つぎのstepは、onset・罹病期間を調べることである。関節障害の診断においては、外傷を契機に発症するスポーツ障害も少なくなく、既往歴の正確な把握が必要である。 
 膝関節障害は大きく1)半月板障害2)前十字靱帯損傷を中心とした靱帯不全3)離断性骨軟骨炎などの骨軟骨障害4)膝蓋骨亜脱臼症候群・滑膜ヒダ障害などの膝蓋大腿関節障害および5)ジャンパー膝・ランナー膝など膝周囲の筋や腱の障害の5つに分類される。診断を進めるにあたって重要なkey wordsは、外傷性膝関節血症(外傷により膝関節内に血液の貯溜した状態)、膝くずれ-Giving way(意志のコントロールを失って膝がガクンとくずれる現象)、膝ひっかかり感-Catching(関節内構成体が膝の屈伸とともにひっかかる症状)である。例えば、過去に明確な受傷機転かつ関節血症が存在し、スポーツ動作時に膝くずれがあれば前十字靱帯損傷を疑う。 
 

  • 半月板障害;膝の捻り動作を反復するスポーツで、catchingがあり、click を誘発するMcMurray test が陽性であればほぼ半月板障害と診断され、損傷形態はMRIで評価する。治療はその大半が鏡視下部分切除術で術後2週間でスポーツ復帰も可能である。
  • 前十字靱帯(Anterior Cruciate Ligament-ACL)損傷;前述のごとく診断を進めるが、Giving wayは膝の前外方回旋不安定性Antero-lateral rotatory instability (ALRI)によるものである。ACL損傷の最大の問題点は、急性期を過ぎると痛みもほぼ消失するため、とりあえずスポーツ再開が可能であることで、スポーツを行えば ALRIが制御しきれずGiving wayを繰り返し、2次的に半月板損傷などを引き起こす。Lachman test N test で診断し、MRI 検査で確定する。治療は機能再建術、現在ではすべて鏡視下により人工素材(polyester)で補強した自家腱を移植し、手術 時間は2時間少々である。術後リハビリテーションは、ターン・ジャンプ・瞬敏性トレーニングなども行い、術後4ー5ヵ月 頃を目安に元のスポーツを再開させる。
  • 離断性骨軟骨炎は12-16歳に好発し、関節軟骨下骨壊死・骨軟骨片遊離を病態とした障害で、スポーツストレスが誘因となり発症する。進行期では骨軟骨片が脱落・遊離して関節鼠となりcatching症状を呈し、半月板障害と非常によく 似た臨床像となる。初期はスポーツ禁止、進行期には鏡視下に遊離体摘出などを行う。
  • タナ障害;膝蓋前内側部の滑膜ヒダにより部分的な滑膜炎が生ずる。ほとんどが保存的に加療される。 5)ジャンパー膝(Jumper's knee);繰返すジャンプ動作による膝伸展機構の障害であり、バスケットボール・バレーボ ールなどで発生する。競技をやめないかぎり難治性である。ランナー膝(Runner's knee);いくつかの病態に分類され ているが、腸脛靭帯炎がその代表である。O脚が深く関係し、ランニング動作により大腿骨外顆部で擦れ発症する。治療は、ストレッチングが中心であるが、シューズの踵外側を高く矯正する装具療法も効果的である。以上、スポーツ選手において日常診療上よく遭遇する関節障害の診断と治療のポイントを簡単に紹介したが、選手たちのスポーツ外傷・障害の認識向上となるよう、ご指導頂ければ幸いと考えている。