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pub-2 「本学(日本医科大学)スポーツ医学の現状と展望」

日医大誌 .62:561,1995.

要約

 先進国の1つとして、現在世界をリードしていくべき立場を取る日本において、医学・医療に携わる我々は、1つの転換期を迎えています。これまでの医療が人々の生命の救済を中心として発展してきたとすれば、これからは加えて人々の生活の質を向上させるための医療です。近年の医療の向上はめざましく、より多くの人々がより高い水準に社会復帰できるようになりました。一方、メディアにも助けられ、余暇の過ごし方など人々は質の高い人生を送るための手法を凝らしています。その中でひときわ関心を寄せられているのがスポーツです。スポーツに対する人々の考え方はここ数年確かに変わってきています。スポーツは見るものから参加するものへと変化し、これはひとえにスポーツなるものの意 義の多面性によります。健康のためのスポーツが推奨されている中で、競いあうことのおもしろさ・充実感に加え、スポーツの中で得られたものの実社会への応用など、様々な意義を見出して人々はスポーツに参加し始めているのです。 “Week End Athlete”なる言葉も意味がよく解るし、今では一般的です。この社会現象に伴って医療従事者である 我々はスポーツに対する、健康に対する幅広い知識が要求されています。具体的には安全にスポーツを行うためのメディカルチェック、医学的知識の教育、外傷の予防など医学的なバックアップ体制の充実が急務です。 
 
日本が本格的にスポーツに取り組み始めたのは1964年の東京オリンピックの頃からですが、国民の中に実生活の 中でのスポーツの位置付け、どの様にスポーツに取り組むべきかを考える下地が育ち始めました。スポーツ医学に関し ても同様でこの頃よりスポーツをより科学的に実戦に即したサポートをするための努力がなされ現在の日本のスポーツ医学の基礎を築いています。現在、欧米諸国と日本の決定的な差はスポーツをするものとそれを支えるスポーツ医学従事者とのコミュニケーションの違いです。最前線で奮闘されているスポーツ医を除いて多くはその接点を作り得ず、スポーツの現場を把握していないと思われます。また、スポーツ従事者も医学の世界は敷居が高く、本当の意味で心を開くことが出来ず、能力を発揮しきれていないのではないでしょうか。日本独自の、将来欧米諸国に参考にされるよう なスポーツ医学を、そのための研究・経験・環境を発展させるべきと考えます。 
 
 本学におけるスポーツ医学は古くは整形外科初代主任教授の斎藤一男先生が日本のスポーツ医学のパイオニアで あったことからも、以来大切に温めてきた分野です。現在本学においては整形外科学教室の中にスポーツ外来部門を備え、主としてスポーツ競技者の治療を中心にスポーツ医学の基礎を作っています。トップレベルの競技としては、バスケットボール、バレーボール、ソフトボール、バドミントン等々、サブトップレベルの競技はあらゆる競技において、選手を第一線に戻すべく指導を行っています。また、先に述べたこれからのスポーツ社会に対応すべくレクリエーショナ ルなレベルの研究も合わせて行っており、全レベルのスポーツ医学の充実を目指しています。しかしながら私個人的には、様々なレベルのスポーツ医学を網羅するために必要なことはトップレベルでの限界への挑戦という考えに以前より変りはなく、今後もこれにより得られた知識経験を様々なスポーツ従事者のために役にたてたいと考えています。 
 
 日本のスポーツおよびスポーツ医学に対する関心の高まりの中で、そのニーズに対応すべく、現在我々は1つの構 想を描いています。それは本学に独自のスポーツ医学科(仮称)を設立することです。目的は先に述べたように人々のQuality of lifeの向上のため、スポーツを楽しんでもらうための基礎的・臨床的中心施設となることです。具体的には様々なレベルのスポーツ従事者に対する医学的バックアップのノウハウを確立することで、トップレベル競技者にはより早くより良い状態での競技復帰指導、趣味のスポーツに対してはより楽しむためのコンディショニングの指導など、スポーツ種目別にその指導体系を整えることです。またこの施設は様々なスポーツの種類・レベルの人々が、医学的なこと ばかりでなく色々と意見を交換しあえる中心的な場にもしたいと考えています。スポーツ愛好家にとっても、敷居の低いスポーツ医学を楽しめる場所作りを描いています。