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pub-4 「スポーツ用膝装具:臨床評価面からの検討 」
ー 膝前十字靱帯・回旋不安定性制御効果 ー

J Nippon Med Sch. 65: 245-248, 1998

はじめに

近年、膝前十字靱帯 (以下ACL)再建術の臨床成績向上はめざましく、現在は術式後療法の工夫の時期に入っている。後療法は加速度的に早くなり、早期スポーツ復帰が可能となった反面、再建靱帯の再断裂例が少なからず報告されている。この中で必ず使用されてきた膝装具は、その効果に疑問を投げかけられ、欧米の経済的背景もあいまって使用の是非が問われている。
本稿ではACL再建術における術後膝装具の現状を簡単に述べ、その有用性の重要なカギを握る回旋不安定性制御効果の一端を解明するため、床反力/三次元動作解析システムを用いた研究を行ったので紹介する。

機能膝装具不安定性制御効果の歴史

膝装具は、1)予防用膝装具、2)機能膝装具、3)リハビリテーション用膝装具の3つに分類され*1ACL再建術においては、術後早期の時期を除いて機能膝装具が再発防止用膝装具として用いられている。現在わが国で主に使用されているカスタムメイド機能膝装具は、C.Ti-2DONJOY- defianceGII-extremeなどであるが(−1)、これらは本当に膝不安定性を制御、再建靭帯の安全性を確約しているであろうか?
 
1972年にデビューした機能膝装具の代表でもあるLenox Hill Derotation brace*2が、1986年頃よりその有用性に一石を投じられたことに端を発し*3*4、機能膝装具の研究は前方不安定性制御効果を中心として報告されてきた*5*6*71996Wojtys*8の研究は術後膝装具の有用性を否定、Brace-Freeリハビリテーションなる言葉も生まれるに至った*9。現時点での機能膝装具有用性のコンセンサスは、再受傷防止のための内外反不安定性制御や心理的サポート面などと考えられる。

図-1
図-2

ACL 受傷機転と外反内旋損傷

ACL受傷機転は、1)外反・外旋損傷、2)内反・内旋損傷、3)過伸展損傷の3つに分類され*10、外反・外旋損傷は複合靱帯損傷が多く、ACL単独損傷は内反・内旋損傷に多いとされている。しかしながらこの外反・外旋損傷に意外にもACL単独損傷が多いことが報告されてきた*11
1988年の徳重ら*12による98例の受傷機転の調査によれば、分類に入らない外反・内旋損傷が4849%と非常に多く、その特徴はストップ・着地動作で、選手は膝が内がわに入っての受傷と表現し, 過去、外反・外旋損傷として報告されたものの多くにこのタイプが含まれていると推測できる。
-2はバスケットボールにおけるACL受傷の瞬間をとらえたVTRの合成写真であるが、スルーパスをゴール下に走り込んでシュートに持ち込もうとしたところ、バスが右前方に流れこれを無理な体勢でキャッチしようと上体が外旋、これをこらえようと膝外反で着地、フロアに固定された下腿が相対的に内旋したその瞬間に受傷した、典型的な外反・内旋損傷である。

床反力/三次元動作解析を用いた膝装具回旋 不安定性制御効果の検討

バスケットボールは、攻守の展開が速いジャンプ競技で、床が滑らず足部が固定されやすいという競技特性の上に、膝には絶えず前後左右旋のストレスが加わるACLにとって非常に苛酷な環境である。当施設ではバスケットボール選手を術後早期に競技復帰させるため、治療体系の中、膝装具を重要な位置づけとして再建術および早期後療法を行ってきた。当施設ACL再建術の特徴は、自家組織 (四重束STG)を全長に渡り人工素材 (polyester/LK)で補強するため、初期強度がきわめて高い点である。したがって超早期療法が可能で、術後3ヵ月で競技トレーニングに移行、5ヵ月でゲーム復帰させる。その結果、筋力は術後5ヵ月で健側の87.5% 1年時再建靭帯2nd lookも成熟良好例が97%であった*13
以上、われわれの経験、また選手の感触からは、この治療体系の中で膝装具は必要不可欠と考えているが、その理由を解明するため以下の研究を行った。

図-3

対象および方法

対象は44歳男性の右膝で、C.Ti-2プレース (Sigmax) をカスタムメイド、解析には、床反力/三次元ビデオ動作解析システム MA6250 (アニマ社)を用いた。ターン動作は、助走1歩でフォースプレートに右脚着地、進行逆方向に180°方向転換するいわゆる180°ターンである(-3a)。 これはターン動作には上体の時計回りのひねりに 伴って足部にも必ず時計回りの軸トルクが発生するという当教室研究成果*14に基づく、滕外反・下腿内旋ストレスのモデルである。各床反力ベクトルは、Fz垂直方向は上方、Fx進行方向は進行方向と逆方向がグラフ上正方向で、また時計回り軸トルクには反時計回り床反力Mzが発生、これを正方向として表している(-3b)
ビデオ映像は進行方向左2方向より撮影、マーカーの位置は骨盤・大腿・足部の各軸2点ずつ計6点を設定した(-3a)。これらマーカーの動きをスティックピクチャーとして表示し、XY面すなわち上方からみた動きを経時的に観察した。

解析1Mz/Fxの比較検討

装具を装着しない場合と、した場合とで回旋軸トルクを比較した。 比較にはMzをターン方向成分Fxで除したMz/Fxを用いたが、これは個々のターン動作でその動作強度が異なるため、ストップ動作強度の指標となるFxで除することによりターン動作強度の影響が除かれ、トルクを相対的に比較可能となるからである. Mz/Fx の単位は (m) となるので、回転の半径lever armとも考えられ、これが大きくなれば小さな力で同等の軸トルクを発生させることができる理屈になる。 装具を装着しない場合(以下NBターン) 装着した場合(以下Bターン)で、Mz/Fx10回の平均値の差の検定を行った。
 

解析 2-M4D/M2D 比の比較検討

次にXY面における膝部のマーカーM4heel contactから進行方向、すなわち膝外側方向への最大移動距離を両ターンで比較した。比較はやはり同様にターン動作強度の影響を除くため、骨盤部のマーカーM2の移動距離で補正、すなわち進行方向X軸上の骨盤の移動距離M2Dに対する膝の移動距離M4Dの割合M4D/M2D 比にて行った。

図-4

結果

本ターン動作で発生する床反力波形 (Fz, Fx,Mz)
本ターン動作で発生する床反力波形において、FzおよびFxは最初のスパイクに引き続く正方向二峰性の形を示した(4)。これに対して軸トルクMzは最初の負方向のスパイクに引き続く正方向の一峰性の波形を示した。これはターン動作では heel contact 時に反時計回りの軸トルクが一瞬かかった後、上体の捻れの力を受け時計回りの 軸トルクが発生するためで、ターンの折り返しでそのピーク (P2)を迎えていた。ここで下腿内旋すなわち ACL に多大な回旋力が加わっている、

解析1の結果
Mz/Fx は、NB ターンの0.60±0.03 (平均値士SD) に対して、Bターンでは0.52 ±0.06と、統計学的有意 (p<0.01)BターンのMz/Fx が小さい値であった。 これによりBターンはNBターンに比べ、柚トルクの lever arm が短い、すなわちトルクの発生しにくいターンであることが判明した。
解析2の結果
MD/M2D 比は、NB ターン1.66±0.24 (平均値± SD) に対してBターン1.49±0.25で、有意差は認めないもののBターンで移動比が小さい傾向を認めた(-5)。このことはBターンは装具により内外反が抑えられ、その結果としてトルクの lever arm が短くなったと考えられる。

図-5

考察

ACLに対する損傷危険性の理由から、Knee in/Toe out 姿勢は不良肢位とされ、とくに女子においてはこの肢位をとりやすく、女子にACL損傷が多い理由の1つとされている。この肢位では 膝関節は外反外旋位をとり、外反によりACLは緊張、外部に密着する。今回の検討のNBターンでは, Knee in /Toe out による heel contact から、踏み込みのピークにかけては大きく進行方向に移動しており(-5)、着地時外反続いて瞬時に内反のストレスが加わっていると考えられる。スポーツ動作上、下腿の外旋には必ず膝外反が、 また下腿内旋には膝内反が伴うため, ターン動作においては瞬時に外反外旋・内反内旋のストレスが連続することとなる。
前述したバスケットボールにおける受傷機転は、上体のねじれに抵抗して滕外反外旋位で着地、その瞬間下腿の反時計方向のねじれによる内反内旋ストレスがかかったと推測されるが、外反外旋ストレスで顆部に密着緊張した ACLは内反により一旦弛緩、直後に多大な内反内旋ストレスと、一連のストレスが瞬時に連続して起こり断裂に至ったものと考えられる。あたかも車の牽引時に、一旦弛んだロープで急激に牽引を行うと一瞬にしてロープは切れてしまうごとくである。

おわりに

術後膝装具の是非が問われている中、今回の検討から導かれる膝装具の膝回旋不安定性に対する有効性は、膝装具が膝外反・内反ストレスを制御することによって、ターン動作時、間接的に軸トルクを軽減、ACLを回旋ストレスから守る機序にあると推測された。
術後膝装具は, スポーツ復帰を目ざすACL再建術後療法において、筋力の十分でない時期の再発予防用装具として推奨されるべきものと考える。

文献

*1 斎藤明義ら : 部位別スポーツ用具の実際-膝関節節. 臨床スポーツ医学 17:65-75, 2000.
*2 Nicholas. J. A. et al. : Bracing the anterior cruciate ligament deficient knee using the Lenox Hill derotation brace. Clin. Orthop, 172 137- 141, 1983.
*3 Bech, C. et al. : Instrumented testing of fune- tional knee braces. Am. J. Sports Med. 14253- 256, 1986.
*4 Coughlin, L. et al. : Knee bracing and antero- lateral rotatory instability. Am. J. Sports Med.15 : 161-163, 1987.
*5 安田和則ら : 前十字不全に対する膝装具の効果とその限界. 13:55-60, 1987.
*6 Cook, F. F. et al. : A dynamic analysis of a functional brace for anterior cruciate ligament insufficiency. Am. J. Sports Med. 17519-524.1989.
*7 Branch, R. B. et al. : Dynamic EMG analysis of anterior cruciate deficient legs with and without bracing during cutting. Am. J. Sports Med. 17 35-41, 1989.

*8 Wojtys, E. M. et al. : Anterior crociate ligament functional brace use in sports. Am. J. Sports Med. 24:539-546, 1996.
*9 Howell, S. M. et al. : Brace-Free rehabilitation, with early return to activity, for knees recon- structed with a double-looped semitendinosus and gracilis graft. J. Bone Joint Surg 78A814- 825, 1996.
*10 Noyes, F. R. et al. : Arthroscopy in acute traumatic hemarthrosis of the knee. Incidence of anterior cruciate tears and other injuries. J. Bone Joint Surg 62A687-695, 1980.
*11 案浦聖凡ら : スポーツにおける膝前十字靭帯損傷の受傷機序について. 整スポ会誌 16:45-52, 1996.
*12 徳重克彦ら : スポーツによる膝前十字靭帯損傷の受傷メカニズムに対する検討.整スポ会誌7:1-5, 1988.
*13 Narita, T. et al. : The effect of accelerated re habilitation on athletes after anterior cruciate ligament reconstruction using semitendinosus and gracilis tendon augmented by woven polyes-ter. J. Jpn. Knee Society 2000 (in printing).
*14 武田知通ら : サッカー選手における床反力計を用いたターン動作の解析. 日本臨床バイオメカニクス会誌 19:521-525, 1998