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pub-5 「バスケットボール競技特性と膝前十字靭帯損傷 」
 ー 日本リーグにおける障害調査 ー

 臨床スポーツ医学 . 19: 75-79, 2002.

要約

 バスケットボール競技における膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament、以下ACL)損傷の予防・治療の重要性に 異論はないが、近年の競技人口増加・レベル向上に伴って、より幅広く質の高い医学的指導が求められている。1995JBL日本バスケットボールリーグ機構、それまでの日本バスケットボール協会日本リーグ運営部から移管)が発足し、将来のプロ化を見据えた新たな組織として注目されている中、1998JBL所属選手によって構成された全日本男子代表チームが 31 年ぶりに悲願の世界選手権出場権を勝ち取った。これを機に、日本バスケットボール協会医科学研究委員会は日本トップリーグとしての JBL所属選手に対する障害調査を行い、その結果よりバスケットボール競技特性における膝ACLの受傷機転・役割を明らかにし、将来の医学的指導に役立てることを目的として本研究を行った。
 
 調査対象はJBL一部・二部に所属する選手の内、回答の得られた369名(男子178名、女子191名、回答率76% で、ACL 受傷経験者は男子1616膝(有病率9%)、女子3333膝(有病率18%)の計4949膝、女子においてはなんと5人に1人、コート上に必ず1人はACL受傷経験者がいる計算になる。調査項目は1)受傷状況、2)初 回受傷後の経過、3)治療法、4)競技復帰までの経過、5)現在の競技活動状況、である。  
 受傷状況は、受傷時年齢が男子平均 22.6 歳、女子平均 18.9 歳、男子は競技開始後平均 11.3 年、女子は平均9.3年、経験を十分積んでからの受傷で、男子8名50%、女子1340%JBL 登録後の受傷であった。受傷環境をまとめると、男子の50%がペイント内の受傷に対して女子はペイント外が79%、男女ともオフェンス時(74%)の受傷が圧倒的で、受傷プレイは、男子はシュート関連動作であるカットインが 25%であるのに対して、女子はパスキャッチが24%と高率であった。受傷動作は男女とも着地動作が最も多く、次いでストップ動作であり、非接触型(Non-contact)損傷圧倒的(91%)であった。
 
 調査時、既に競技復帰を果している44名(男子14名、女子30名)の経過および現在の活動状況は、男子の11名 79%、女子の12名 40%は手術を受けずとりあえず競技再開したが、その内男子は8名73%、女子は12名 100%が競技再開後“膝くずれ(Giving way)”を生じ、その後男子5名、女子10名が手術を受けた。調査時、手術例では競技中 「“膝くずれ”あり」がわずか17%に対して、保存例では75%と高率で、バスケットボール・プレイ中の膝の支障は、手術例が「支障あり」13名36%に対して保存例は6名75%と圧倒的に多かった。その支障の主な理由を尋ねると、手術例は膝くずれ、痛み、筋力低下、可動域制限など多種多様であったのに対して、保存例の全て 100%が“膝くずれ”であり、 ACL無くしてはバスケができない”という劇的な結果となった。
 
 バスケットボールは、攻守の展開が速く、床が滑らず足部が固定され易いことより膝関節に多大な負荷のかかる競技特性を有し、ACL にとって極めて苛酷な環境で、女子に代表されるjoint laxity(関節弛緩性)や膝伸筋・屈筋力不均衡など様々な要素がかかわり受傷に至る。2大受傷動作である着地・ストップ動作において、大腿四頭筋力に加え下腿内旋方向の捻りの動作が関与していると考えられ、女子で主に見られる"Knee in-Toe out"姿勢(外反姿勢で膝を安定させる)は大腿四頭筋力により大腿骨外顆が外旋方向に圧迫されることや、上体の慣性により大腿が外旋するため、相対的に下腿は内旋、受傷に至る。
 
 今回の調査結果において、保存例の大半に”膝くずれ”が再発し、競技中膝支障の理由が100%”膝くずれ”であっ たという結果は、バスケットボール競技におけるACL制御の重要性を再認識させられた。 
我々医療従事者にとってはACL損傷治療法・予防法の確立は勿論のこと、選手により良い状態で競技を継続させ るための医学的バックアップ体制確立が急務と考える。